NEWSグローバル実装③本番稼働(限定領域)2026-08-31

コインベース、米国株トークンをBaseで稼働 「1対1」の中身は株主権ではなく受益権

自己管理ウォレットで米国株のトークンを持てるようになった。ただし目論見書が定義する保有者の権利は、株主のそれとは別物である。

BY OFM Research · 4 MIN READ

SHARELB!

コインベースは8月24日、エヌビディア、メタ、アップル、アルファベットの4銘柄を対象とするトークンをレイヤー2チェーンBaseで稼働させた。発行体はアブダビ国際市場(ADGM)に6月17日設立されたCoinbase Onchain SPV Ltdで、目論見書はADGM金融サービス規制庁が8月4日に承認した。トークンが表すのは原株そのものではなく、受託保管された原株に対する持分的な受益権である。保有者に議決権はなく、本人確認を経て「権利確定保有者」にならなければ償還もできない。米国居住者は取得できない。

何が起きたか

目論見書によれば、各証券はADGMの金融サービス市場規則上の「金融商品を表章する証書」に該当し、信託財産全体に対する持分的受益権を表す。原株の売買と保管は米SEC登録ブローカーディーラーのAlpaca Securitiesが担い、発行体は分別口座の原株を単純受託者として保有する。法的な権利の正本は、トークン化事業者Onchain Marketplaceが証券集中保管機関として維持する「Legal Register」にある。チェーン上のトークンは目論見書の定義上、独立した証券ではなく記録移転の運用基盤にすぎない。発行は認可参加者に限られ、二次流通は分散型取引所で許可なく行われる。手数料は組成0.01%、償還0.05%、分配金に5.0%。1トークンが常に1株に対応するわけではなく、配当の再投資に応じて比率が動く。

なぜ重要か

日本でもトークン化株式の制度整備が論点である。この事例が突きつけるのは、「1対1の裏付け」という説明と、投資家が実際に持つ権利との距離である。保有者は原株の株主ではなく、発行体に対する受益権者にすぎない。議決権はなく、配当も現金では届かず再投資に回る。権利確定条件は購入後にも変更でき、条件を満たせない保有者の証券は凍結や没収の対象になりうると目論見書は明記する。自己管理ウォレットで自由に動く資産に見えながら、権利の側は発行体の裁量下にある。日本の証券会社が同種の商品を扱う場合、この非対称を顧客にどう説明するかが実務の焦点になる。

注視点

トークンが移転しても法的な名義は移らない設計であるため、権利確定していない保有者が滞留すると、対応する原株が償還されないまま積み上がる可能性を目論見書自身が認めている。分散型取引所での価格が原株から乖離する余地も明記されている。米国では販売できず、同社は国内提供を当局に求めている。原株の発行体自身がチェーン上に移行すれば、この構造は成り立たなくなる。

進捗段階

実装トラック②(本番稼働・反復的な発行と償還)。ただしブロックチェーン記録は法的正本ではなく、正本は台帳運営者が保持する。記録の正本性を満たさないため、③以上とは判定しない。

用語解説

  • 受益権:信託された財産から利益を受け取る権利。信託の受託者が財産の法的な名義人となり、受益者はそこから生じる経済的利益を得る。株主名簿に載る株主とは異なり、発行会社に対して直接の権利を持たない点が実務上の分かれ目になる。
  • 単純受託者(bare trustee):財産を名義上保有するだけで、運用の裁量を持たない受託者。受益者の指図に従って財産を保持する。倒産隔離を成立させる前提だが、その有効性は準拠法の下での争訟に耐えられるかどうかに依存する。
  • ADGM(アブダビ国際市場):アラブ首長国連邦の金融フリーゾーンで、英国法を基礎とした独自の法体系と規制当局を持つ。米国や欧州で認められていない商品構成を組成する拠点として使われることがあり、規制のすき間をどう埋めるかが各国当局の課題になる。
  • 権利確定条件(Vesting Conditions):保有者が本人確認や制裁対象でないことの確認を経て、正式な権利者として登録されるための条件。これを満たさない保有者はトークンを持っていても償還や議決ができない。トークンの自由な移転と、権利行使の制限が並存する構造の要になる。
  • 認可参加者:発行体と契約し、トークンの組成と償還を担う専門業者。ETFの指定参加者に相当する役割で、原資産の受け渡しを通じて市場価格と裏付け資産の価値の乖離を埋める働きを期待される。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-31

RELATED RECORDS

WRITTEN BY

OFM Research

Researcher

OFM リサーチチームは、ブロックチェーン・暗号資産関連および金融についての深い知識に基づいて、今現場で起こっていることをリサーチ・取材する専門チームです。

NEWSLETTER

オンチェーン金融の最新記事を毎週お届け

ニュースレターに登録すると、編集チームが厳選した週次ダイジェストを毎週月曜日にお届けします。