NEWSグローバル制度⓪検討・研究2026-08-29

BIS総支配人、ジャクソンホールで「ステーブルコインは大規模決済に耐えない」──軸足はトークン化預金へ

中央銀行の元締めが、決済革新を主題に掲げた場でステーブルコインの役割を限定した。代わりに本流へ据えたのは、銀行の負債であるトークン化預金である。

BY OFM Research · 5 MIN READ

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BISのパブロ・エルナンデス・デ・コス総支配人は2026年8月28日、カンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議で講演し、ステーブルコインは大規模な決済手段として信頼できないと述べた。額面償還、弾力性、相互運用性、金融の健全性の各点で不足があるとした。対してトークン化預金は銀行の負債であり、背後で中央銀行マネーによる銀行間決済が行われるため単一性が保たれるとして、日常的な決済の大半はこちらが担うべきだと主張した。BISは本稿執筆時点で講演原稿を公開しておらず、内容は報道に依拠している。

何が起きたか

デ・コス総支配人は、ステーブルコインとトークン化預金はいずれもトークン化技術を用いる点で共通するが、貨幣制度上の位置づけが異なると整理した。ステーブルコインについては、額面での償還を強制する仕組みがないこと、ある銘柄から別の銘柄へ移る際に二次市場での売買を伴い額面が崩れうること、基盤の間で真に相互運用できていないこと、マネー・ローンダリング対策を一貫して適用しにくいことを挙げた。ドル建てステーブルコインが米国外へ浸透すれば、通貨主権の毀損や金融政策の波及の弱まりにつながるとも述べた。銀行から預金が流出すれば調達コストが上がり、借り手の金利に跳ね返るとも指摘した。両者は併存しうるとしつつ、ステーブルコインの役割はより限定的な用途にとどまるとの見方を示した。トークン化預金についても、相互運用性、ガバナンス、決済に関する法的な障害という課題が残ることは自ら認めている。

なぜ重要か

日本では改正資金決済法の下で電子決済手段としてのステーブルコイン発行が制度化され、3メガバンクは共同発行の実証を進めている。一方でトークン化預金は、既存の預金と同じ法的性質を保ったまま24時間の資金移動を可能にする選択肢である。デ・コス氏の整理は、この二つを「どちらが先か」ではなく「どちらを本流に据えるか」という設計問題として提示している。銀行にとっては、ステーブルコイン発行に伴う信託スキームの構築や利用者保護措置の負担と、トークン化預金によって預金者との関係を維持したまま機能を足す道筋との比較が論点になる。証券会社や信託銀行にとっても、決済手段の選択が資金決済リスクの所在を左右する。

注視点

BISが講演原稿を公開すれば、四つの要件の判定基準がより具体的に読める。デ・コス氏は次期ECB総裁の候補と目されており、この主張が欧州の制度設計にどう反映されるかも見どころとなる。日本では日銀当座預金のトークン化に関する論点整理が控えており、二層構造のどこに機能を足すかという同じ問いが待っている。

進捗段階

規制トラック①(当局による方向性の提示)。講演であり、国際基準への反映や各国法令への落とし込みは行われていない。拘束力を持つ段階ではない。

用語解説

  • 貨幣の単一性(シングルネス):発行主体が誰であっても、1円は1円として額面どおりに通用するという性質。銀行預金は中央銀行マネーによる銀行間決済を背後に持つため、A行の預金とB行の預金が等価で交換できる。この性質が崩れると、支払いのたびに相手の信用力を評価する必要が生じる。
  • 額面償還:発行された貨幣類似の請求権を、いつでも額面どおりの法定通貨に戻せること。ステーブルコインでは発行体が償還義務を負うが、その履行を制度として強制する仕組みは法域によって差がある。
  • トークン化預金:銀行が受け入れた預金を、ブロックチェーン上で移転可能な形で表章したもの。法的性質は預金債権のままで、預金保険や監督の枠組みが従来どおり及ぶ点がステーブルコインと異なる。
  • 弾力性(エラスティシティ):決済需要の増減に応じて、貨幣の供給が伸縮すること。銀行は与信を通じて預金を創造できるため弾力性を持つが、準備資産の裏付けを前提とするステーブルコインにはこの機能がない。
  • ジャクソンホール会議:カンザスシティ連銀が毎年8月にワイオミング州で開く経済政策シンポジウム。招待制で、中央銀行総裁や研究者が長期的な政策課題を議論する場として位置づけられている。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-29

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