バーゼル銀行監督委員会は2026年9月23日、2025年12月末時点のデータに基づくバーゼルIIIモニタリング報告を公表し、あわせて銀行の暗号資産関連データを更新した。報道によれば、顧客向け業務は米州で93%増えて64億ユーロとなった一方、銀行自身の資本上のエクスポージャーはほぼ横ばいだった。日本の銀行にとっては、暗号資産業務を「保有」ではなく「顧客向け」で伸ばすという海外大手の選択と、その背後にある資本コストを読む材料になる。BCBSは暗号資産基準の見直しについて年内に進捗を示すとしている。
何が起きたか
BISの公表資料によれば、今回の報告は149行(うち国際的に活動する大手の「グループ1」106行)のデータに基づく。暗号資産の詳細は報告書本体ではなく付属のダッシュボードで示されており、本稿では同データを分析した専門メディアの報道で数値を確認した。それによると、米州の顧客向け業務は93%増の64億ユーロ(約1.15兆円)、欧州は25%減の19億ユーロ(約3,425億円)だった。銀行自身が資本規制の対象として持つエクスポージャーは、米州・欧州とも過去18か月ほぼ変わっていない。変化が大きかったのは構成で、米州ではビットコインの比率が75.8%から44.2%に下がり、イーサが38.5%に上がった。ソラナ(7.8%)やXRP(5.6%)も保有され、その他地域ではステーブルコインの比率が増えた。報告期間ごとに回答行が入れ替わるため、数値の振れには注意が必要だとされる。
なぜ重要か
バーゼルの暗号資産基準では、パブリックチェーン上の暗号資産の多くは最も重い区分に入り、保有額に対して非常に大きな資本を積む必要がある。今回のデータは、海外の大手行が自己勘定での保有を増やさず、保管や取引仲介といった顧客向け業務で収益を得る方向を選んでいることを示唆する。資本上の保有額が横ばいのまま顧客向け業務だけが伸びる姿は、規制が上限として機能している表れとも読める。日本の銀行や証券会社が暗号資産やステーブルコインに関わる業務を設計する際、どの部分を自らのバランスシートに載せ、どの部分を顧客資産として分別するかは、資本コストを直接左右する。ステーブルコインの比率が増えている点は、準備資産の要件を満たすステーブルコインの優遇的な扱いがどう運用されるかにも関わる。
注視点
BCBSは暗号資産基準の対象を絞った見直しを急いでおり、年内に進捗を示すとしている。とくにパブリックチェーン上の資産とステーブルコインの扱いがどう変わるかが焦点である。今回の構成変化が一部の大手行の取引によるものか、業界全体の傾向かは、次回以降のデータで確かめる必要がある。
進捗段階
規制トラック①(国際基準の見直し作業が進行中。改定案は未公表)
用語解説
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バーゼルIIIモニタリング:国際的な銀行規制であるバーゼルIIIが銀行にどう影響しているかを、BCBSが半年ごとに集計・公表する作業。各国の監督当局を通じて銀行からデータを集める。暗号資産については2021年末のデータから独自の集計を始めた。
- 英:Basel III monitoring / 用例:The Basel III monitoring exercise now tracks how banks hold and service cryptoassets. (バーゼルIIIモニタリングは現在、銀行による暗号資産の保有と取扱いも追跡している)
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プルーデンシャル・エクスポージャー:銀行が自らのバランスシートで抱え、自己資本規制の計算対象になる資産の額。顧客から預かって保管するだけの資産は含まれない。暗号資産ではこの区別が資本負担を大きく左右する。
- 英:prudential exposures / 用例:Prudential exposures stayed flat while client activities grew sharply. (プルーデンシャル・エクスポージャーは横ばいだったが、顧客向け業務は大きく伸びた)
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グループ1銀行:Tier1資本が30億ユーロを超え、国際的に活動する銀行。バーゼル委の集計では大手行の区分として扱われ、日本の3メガバンクもこれに相当する規模にあたる。
- 英:Group 1 banks / 用例:The sample included 106 Group 1 banks across member jurisdictions. (サンプルには、加盟国・地域のグループ1銀行106行が含まれた)
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顧客向け業務:銀行が顧客のために行う暗号資産の保管、取引の仲介、清算などの業務。銀行自身は価格変動のリスクを負わないため、資本負担は保有に比べて小さい。収益は手数料が中心になる。
- 英:activities on behalf of clients / 用例:Most growth came from activities on behalf of clients, not from banks' own holdings. (伸びの大半は、銀行自身の保有ではなく顧客向け業務によるものだった)
出典
- 国際決済銀行「Basel III risk-based capital and leverage ratios are stable while liquidity indicators show limited movements for large internationally active banks」(2026年9月23日): https://www.bis.org/media-releases/20260923-basel-iii-risk-based-capital-and-leverage-ratios-are-stable-while-liquidity-indicators-show
- 国際決済銀行「Basel III monitoring report」(2026年9月23日): https://www.bis.org/publications/202609-qis-basel-iii-monitoring-report
- 国際決済銀行「Basel Committee agrees to publish report on information and communication technology risk management, progresses cryptoasset targeted review」(2026年5月20日): https://www.bis.org/press/p260520.htm
- Ledger Insights「Basel crypto stats: banks shift away from Bitcoin as Ether, stablecoins gain ground」(2026年9月23日、暗号資産の数値の出典): https://www.ledgerinsights.com/basel-crypto-stats-banks-shift-away-from-bitcoin-as-ether-stablecoins-gain-ground/
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。円換算は1ユーロ=180.27円(2026年9月23日ニューヨーク市場終値の1ドル=158.37円、1ユーロ=1.1383ドルからの筆者の計算)によります。