リップルとセトルミントは2026年9月1日、アジア太平洋の規制対象金融機関向けに、トークン化資産の保管・発行・ライフサイクル管理を一体で提供する戦略的提携を発表した。リップルのカストディ基盤「Ripple Custody」と、セトルミントの「DALP」を統合する。両社はアジアで提供を開始済みで、需要に応じ他地域へ広げるという。日本の金融機関にとっては、カストディ・発行・権利管理を別々に調達してきた構造を見直す契機になりうる一方、既存ST基盤との重複と、どの法域の免許を前提とするかが判断材料となる。
何が起きたか
両社は2026年9月1日、規制対象の金融機関がトークン化資産を保管・発行・管理する一連の工程を単一の基盤で扱えるようにする提携を公表した。統合されるのはRipple CustodyとDALP(Digital Asset Lifecycle Platform)である。DALPは発行、コンプライアンス処理、決済、継続事務までを対象とする。Ripple Custodyは直近1年で複数の提携と買収により機能を拡張してきたと説明されている。両社はアジアでの提供を開始済みで、需要に応じ他市場へ拡大する方針という。発表資料はボストン・コンサルティング・グループが2026年5月に公表した報告書を引き、トークン化された実物資産が2035年に88兆ドル(約1京4,080兆円、1ドル=160円換算・筆者算出)に達しうるとの予測を紹介している。これは第三者の予測であり、両社の実績や目標ではない。
なぜ重要か
日本の金融機関がトークン化で直面してきた摩擦は、技術ではなく調達と統制の分散にある。発行はST基盤、保管はカストディ事業者、権利管理は信託や振替機関、コンプライアンスは分析ベンダーと機能が分かれ、つなぎ込みと監査の手当てが実装コストの大半を占めてきた。統合基盤の提案はここに向けたものだが、日本ではProgmat、ibet for Fin、Securitize Japanといった基盤が既に稼働し、信託銀行が権利管理を担う構造も定着している。したがって論点は「置き換え」ではなく、海外資産のカストディや外貨建てトークンの取扱いなど、既存基盤が薄い部分の補完である。あわせて、統合基盤に乗ることは特定ベンダーへの依存を深める選択でもあり、外部委託先の管理、業務継続、乗り換え可能性の評価が伴う。
注視点
第一に、アジアでの提供開始とされる案件の顧客・法域・資産種別が開示されるかである。現時点で導入行名は示されていない。第二に、日本での提供にあたっては、電子決済手段等取引業や有価証券等管理業務など、機能ごとに異なる業規制のどれに服するかの整理が必要になる。第三に、暗号資産と有価証券トークンを同一基盤で扱う設計になるか、分離されるかである。
進捗段階
実装トラック①相当。提携の発表であり、統合基盤を用いた具体的な発行・保管案件は公表されていない。「アジアで提供開始済み」との記述はあるが、導入先や取扱残高は示されていない。
用語解説
- カストディ(機関投資家向け):顧客に代わって資産を保管し、権利の記録と移転を担う業務。暗号資産では秘密鍵の生成・保管・利用承認の統制が中核となる。分別管理と内部統制の水準が、金融機関が採用できるかどうかの実質的な条件になる。
- デジタル資産ライフサイクル管理:トークンの発行から、投資家の適格性確認、移転制限の適用、利払いや償還、消却までを一貫して扱う考え方。証券の一生を通じた事務が発生するため、発行機能だけを備えても運用は回らないという実務認識に基づく。
- HSM・鍵管理事業者:秘密鍵を物理的に隔離された機器の中で扱い、外部に取り出せない形で署名を行う仕組みと、その提供者。カストディ事業者が自社開発ではなく専門事業者と提携するのは、鍵の管理が監査と保険の対象になるためである。
- ブロックチェーン分析:オンチェーンの取引履歴から資金の出所や制裁対象との関連を評価する仕組み。取引実行前のスクリーニングに用いられ、資金洗浄対策の実務では取引所と発行体の双方で標準的な工程になっている。
- ベンダーロックイン:特定の事業者の基盤に依存し、乗り換えが困難になる状態。統合基盤は運用負担を下げる一方でこのリスクを高めるため、金融機関の外部委託管理では、データの可搬性と代替手段の有無が評価項目になる。
出典
- SettleMint「Ripple and SettleMint partner to provide digital asset custody and tokenization for financial institutions in Asia Pacific」(2026年9月1日): https://news.settlemint.com/news/settlemint-and-ripple-announce-strategic-partnership
- PR Newswire(同リリース配信、2026年9月1日): https://www.prnewswire.com/news-releases/ripple-and-settlemint-partner-to-provide-digital-asset-custody-and-tokenization-for-financial-institutions-in-asia-pacific-302865190.html
- あたらしい経済「リップルとセトルミント、APAC金融機関向けにカストディ・トークン化の統合ソリューション提供」(2026年9月3日): https://www.neweconomy.jp/categories/news
本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。