NEWS米国制度成立・確定(未施行)2026-08-20

米FASB、ステーブルコインを「現金同等物」に区分できる会計基準案を公表──要件は償還権・準備資産・年次開示の3点

米FASBは8月18日、一定の要件を満たすデジタル資産を「現金同等物」として計上できることを設例で示す会計基準改正案(Proposed ASU)を公表した。ステーブルコインが米国債やMMFと並ぶ流動性資産として貸借対照表に並べば、企業や金融機関にとってそれは「決済のために一時的に持つもの」から「余資を置く先」へと性格を変える。

BY OFM Research · 6 MIN READ

SHARELB!

米FASBは8月18日、一定の要件を満たすデジタル資産を「現金同等物」として計上できることを設例で示す会計基準改正案(Proposed ASU)を公表した。ステーブルコインが米国債やMMFと並ぶ流動性資産として貸借対照表に並べば、企業や金融機関にとってそれは「決済のために一時的に持つもの」から「余資を置く先」へと性格を変える。

何が起きたか

改正案の対象はTopic 230(キャッシュ・フロー計算書)で、現金同等物の定義そのものは変更しない。代わりに設例を追加し、法定通貨などの参照資産に対して価値を安定させるよう設計されたデジタル資産が、既存の定義に当てはまるための属性を示す。挙げられているのは、①随時行使できる契約上の現金償還権、②発行体に対して既知の金額で直接償還を求められる権利、③発行済み・流通残高に対して1対1以上の準備資産を、短期かつ流動性の高い資産で分別管理していること、の3点である。

線引きを示す設例も置かれた。流通市場に厚みがあっても、保有者が発行体への直接償還権を持たなければ要件を満たさない。準備資産に暗号資産や金が含まれる場合は、評価変動リスクを理由に不適格とされる。

あわせて、デジタル資産を保有しているか否かにかかわらず、すべての企業に現金同等物の重要な構成要素とその金額(米国債、CP、ステーブルコイン、MMFなど)を年次で開示させる要件が提案された。FASBはこれをIFRS会計基準の類似開示との整合を図るものと位置づけている。意見募集は2026年11月19日まで。適用時期はその後に決まる。

なぜ重要か

日本の金融機関に米国会計基準がそのまま適用されるわけではない。ただし影響は3つの経路で及ぶ。米国上場や米国子会社を持つ金融グループの連結開示、IFRS任意適用企業への波及、そして企業会計基準委員会(ASBJ)での論点整理である。

より実務的なのは、「現金同等物か否か」が決算書の見え方にとどまらず、資金繰り管理、ALM、内部統制の設計に直結する点だ。ステーブルコインが現金同等物として扱えるなら、企業財務部門は保有理由を説明しやすくなり、運用対象としての検討余地が生まれる。

もう一つは商品設計への示唆である。FASB案が重視したのは「発行体に対する直接の償還権」であり、仲介者経由でしか償還できない設計や、流通市場での換金だけを想定した設計は不利になる。日本のJPYC(資金移動業型)やJPYSC・Progmat Coin(信託型)は、いずれも発行体に対する額面償還を制度上の前提としており、この考え方とは方向性が一致する。国内でステーブルコインの取扱いを検討する銀行・証券にとって、償還経路とカストディの構造をどう組むかの判断材料になる。

注視点

第一に、これは草案であり最終基準ではない。意見募集の結果次第で設例の書きぶりは変わりうる。

第二に、法制度上の「支払型ステーブルコイン」の範囲と、会計上の「現金同等物」の範囲が一致する保証はない。米国ではGENIUS法の規則整備が並走しているが、両者は別の物差しである。日本でも資金決済法上の電子決済手段の定義と会計上の整理は分けて考える必要がある。

第三に、準備資産の内訳開示が年次で求められることは、保有者側だけでなく発行体側にも準備資産の質と流動性を証明する圧力をかける。国内発行体の開示実務がこれにどう追随するかが論点となる。

用語解説

ステーブルコイン(stablecoin) 法定通貨などに価値を連動させるよう設計されたブロックチェーン上のトークン。ビットコイン等の暗号資産は価格変動が大きく決済に使えないため、発行体が同額の準備資産を持ち、額面での償還を約束することで価値を固定する設計が生まれた。日本では資金決済法上の「電子決済手段」として位置づけられており、発行できるのは銀行・信託会社・資金移動業者に限られる。

準備資産の分別管理(segregated reserve assets) 発行体が自社の資産と混ぜずに、発行済みトークンの裏付け資産を独立して保管すること。発行体が破綻しても保有者が償還を受けられるようにするための仕組みで、日本の信託型ステーブルコインが信託銀行を使うのも同じ目的による。FASB案が「1対1以上」を求めているのは、流通残高に対して裏付けが不足する状態を排除するためである。

Proposed ASU(Accounting Standards Update、会計基準更新案) FASBが米国会計基準(US GAAP)を改正する際に公表する草案。パブリックコメントを経て最終基準となる手続きで、日本のASBJが公開草案を出してから企業会計基準を確定させる流れに相当する。今回の案は定義を変えず「設例(illustrative examples)」を追加する形式をとっており、条文ではなく具体例で実務の判断基準を示す方式である。

GENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act) 2025年7月に成立した米国初の連邦レベルの支払型ステーブルコイン規制法。発行体のライセンス制、準備資産要件、償還義務などを定める。会計基準とは別の法体系であり、GENIUS法上の「支払型ステーブルコイン」に該当することと、FASB基準上の「現金同等物」に該当することは、判定の物差しが異なる。

出典


本記事は公開情報に基づく解説であり、投資助言を目的としたものではありません。

END OF RECORD / VERIFIED 2026-08-20

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